スワップ投資では、メキシコペソ円、南アフリカランド円、トルコリラ円などの高金利通貨ペアを買いで保有することが多いです。
このとき気になるのが、日本の政策金利が引き上げられた場合、クロス円はどうなるのかという点です。
一般的には日本の金利が上がると円が買われやすくなり、クロス円には下落圧力がかかりやすくなります。
ただし、実際の相場を見ると、日銀が利上げしたからといって、必ずクロス円が下がるわけではありません。
この記事では、ここ数年の日銀利上げ局面で、スワップ投資に人気の通貨ペアにどのような影響が出たのかを確認していきます。
日本の利上げはクロス円にとって基本的にはマイナス材料
クロス円とは、米ドル円以外の「外貨/円」通貨ペアのことです。
たとえば、以下のような通貨ペアがあります。
| 通貨ペア | スワップ投資での位置づけ |
|---|---|
| MXN/JPY | メキシコペソ円。高スワップ通貨として人気 |
| ZAR/JPY | 南アフリカランド円。高金利通貨として使われる |
| TRY/JPY | トルコリラ円。高スワップだが値動きも大きい |
| HUF/JPY | ハンガリーフォリント円。一部FX会社で高スワップ狙いに使われる |
これらの通貨ペアを買うということは、基本的には外貨を買って円を売る取引です。
そのため、日本の政策金利が上がると、次のような影響が出やすくなります。
- 円を売るメリットが小さくなる
- 円を買い戻す動きが出やすくなる
- 外貨と円の金利差が縮小する
- 買いスワップが減りやすくなる
- 円高が進むと評価損が膨らみやすくなる
つまり、日本の利上げは、スワップ投資のクロス円買いにとっては、基本的にマイナス材料です。
ただし、相場は単純ではありません。
実際には、利上げそのものよりも、市場がすでに織り込んでいたかどうか、今後も追加利上げが続くと見られたかどうか、世界的なリスクオフと重なったかどうかのほうが大きく影響します。
ここ数年の日銀利上げ局面
まず、ここ数年の日銀の主な利上げ局面を整理します。
| 日付 | 日銀の政策変更 | 主なポイント |
|---|---|---|
| 2024年3月19日 | マイナス金利政策を終了 | 無担保コールレートを0〜0.1%程度へ |
| 2024年7月31日 | 0.25%程度へ利上げ | 長期国債買入れの減額計画も決定 |
| 2025年1月24日 | 0.5%程度へ利上げ | 市場ではおおむね予想されていた |
| 2025年12月19日 | 0.75%程度へ利上げ | 30年ぶり水準。市場予想通りの利上げ |
2024年3月19日、日銀はマイナス金利政策を終了し、無担保コールレートを0〜0.1%程度で推移するよう促す方針に変更しました。日銀はこの時点で「当面、緩和的な金融環境が継続する」とも説明しています。
その後、2024年7月31日には、無担保コールレートを0.25%程度で推移するよう促す方針に変更しました。また、長期国債買入れの減額計画も同時に決定しています。
2025年1月には、政策金利を0.5%へ引き上げました。この利上げは市場で広く予想されていたと報じられています。
さらに2025年12月には、政策金利を0.75%へ引き上げました。こちらも広く予想されていた利上げで、政策金利は30年ぶりの水準となりました。
事例1:2024年3月のマイナス金利解除では、クロス円は大きく下がらなかった
まず重要なのが、2024年3月のマイナス金利解除です。
「マイナス金利解除」と聞くと、円高になってクロス円が下がりそうに感じます。
しかし、このときのクロス円は、必ずしも大きく下落したわけではありません。
理由は、日銀がマイナス金利を解除した一方で、今後も急ピッチで利上げするとは受け止められなかったためです。
日銀自身も、2024年3月の声明で、当面は緩和的な金融環境が続くとの見方を示していました。
つまり、2024年3月の事例からわかるのは、利上げやマイナス金利解除そのものよりも、その後の利上げペースがどう見られるかが重要ということです。
スワップ投資の観点では、ここはかなり大事です。
日本が利上げしても、市場が「まだ日本の金利は低い」「追加利上げはゆっくり」と判断すれば、クロス円がすぐに大きく下がるとは限りません。
事例2:2024年7月末〜8月初旬は、スワップ投資向けクロス円が大きく下落
最も注意したいのは、2024年7月末から8月初旬の動きです。
2024年7月31日、日銀は政策金利を0.25%程度へ引き上げました。
この前後では、メキシコペソ円や南アフリカランド円など、スワップ投資で人気のクロス円が大きく下落しました。
メキシコペソ円の動き
| 日付 | MXN/JPY |
|---|---|
| 2024年7月の高値 | 9.0587円 |
| 2024年7月31日 | 8.0455円 |
| 2024年8月6日 | 7.3896円 |
メキシコペソ円は、2024年7月の高値9.0587円から、8月6日には7.3896円まで下落しました。
単純計算では、約18%の下落です。
スワップ投資で買いポジションを持っていた場合、日々のスワップポイントを受け取っていても、短期間で大きな評価損が出た可能性があります。
南アフリカランド円の動き
| 日付 | ZAR/JPY |
|---|---|
| 2024年7月の高値 | 8.9221円 |
| 2024年8月5日 | 7.7672円 |
南アフリカランド円も、2024年7月の高値8.9221円から、8月5日には7.7672円まで下落しました。
こちらも、短期間で約13%の下落です。
なぜ大きく下がったのか
この下落は、日銀利上げだけが原因ではありません。
大きかったのは、円キャリートレードの巻き戻しです。
円キャリートレードとは、低金利の円を調達して、高金利通貨やリスク資産に投資する取引です。
日本の金利が上がると、円を借りて投資するメリットが小さくなります。さらに相場が荒れると、投資家が一斉にポジションを解消し、円を買い戻す動きが強まります。
2024年8月には、円キャリートレードの巻き戻しが世界の市場に影響したと報じられました。ロイター系の記事でも、日銀利上げ後に円が急上昇し、投資家が円キャリートレードを解消する動きが出たと説明されています。
つまり、この局面で怖かったのは、単なる「0.25%への利上げ」ではありません。
日銀利上げ、円高、リスクオフ、キャリートレード解消が重なったことが、スワップ投資向けクロス円の大きな下落につながったと考えられます。
事例3:2025年1月の0.5%利上げでは、反応は比較的限定的
2025年1月24日、日銀は政策金利を0.5%へ引き上げました。
ただし、この利上げは市場でかなり織り込まれていました。ロイター系の記事でも、0.5%への利上げは広く予想されていた動きとされています。
このため、2024年8月のような急激なクロス円下落にはなりませんでした。
もちろん、利上げは円高要因ではあります。
しかし、市場が事前に予想していた利上げであれば、発表時点ではすでに相場にある程度織り込まれていることがあります。
スワップ投資の観点では、ここも重要です。
日銀が利上げしたからといって、毎回大きな円高になるわけではありません。
むしろ、相場が大きく動きやすいのは、以下のようなケースです。
- 市場予想より利上げが早い
- 市場予想より利上げ幅が大きい
- 日銀総裁の発言が想定よりタカ派的
- 今後も連続利上げが続くと見られる
- 世界的な株安やリスクオフと重なる
事例4:2025年12月の0.75%利上げも、利上げ自体は市場予想通り
2025年12月19日、日銀は政策金利を0.75%へ引き上げました。
これは30年ぶりの高水準と報じられましたが、利上げ自体は市場で広く予想されていました。
このように、市場が事前に利上げを織り込んでいる場合、発表直後の為替反応は限定的になりやすいです。
もちろん、0.75%という水準は、以前の日本の超低金利環境と比べれば大きな変化です。
しかし、スワップ投資向けクロス円にとって重要なのは、政策金利の水準だけではありません。
大事なのは、市場が次に何を織り込みにいくかです。
たとえば、次のように見られれば円高圧力は強まりやすくなります。
- さらに1.0%へ利上げされそう
- 日銀が想定よりタカ派的
- 円安是正のために利上げが続きそう
- 海外投資家が円キャリートレードを減らしそう
一方で、以下のように見られれば、クロス円への下落圧力は限定的になることもあります。
- 利上げは今回でいったん休止
- 日銀は慎重に進める
- 海外金利も高く、金利差はまだ大きい
- 世界的にリスクオンが続いている
通貨ペア別に見る影響
MXN/JPY:円キャリー解消局面では大きく下がる
メキシコペソ円は、スワップ投資で非常に人気のある通貨ペアです。
メキシコの金利が高いため、買いスワップが魅力になりやすい一方で、円高局面では大きく下がることがあります。
特に2024年7月末〜8月初旬には、メキシコペソ円が大きく下落しました。
| 日付 | MXN/JPY |
|---|---|
| 2024年7月の高値 | 9.0587円 |
| 2024年8月6日 | 7.3896円 |
この下落を見ると、メキシコペソ円は高スワップで魅力がある一方、円高・リスクオフ・キャリートレード解消が重なると、かなり大きく下がることがわかります。
スワップポイントを受け取っていても、短期間の為替差損で大きくマイナスになる可能性があります。
ZAR/JPY:リスクオフに弱い
南アフリカランド円も、高金利通貨としてスワップ投資に使われます。
ただし、ZAR/JPYは金利差だけでなく、資源価格、中国景気、世界的な投資家心理の影響も受けやすい通貨ペアです。
2024年7月の高値8.9221円から、8月5日には7.7672円まで下落しました。
メキシコペソ円と同じく、日銀利上げそのものよりも、リスクオフと円買いが重なったときに大きく下がりやすい点に注意が必要です。
TRY/JPY:日銀利上げよりもトルコ側の要因が大きい
トルコリラ円は、高スワップ通貨として有名です。
ただし、TRY/JPYは日銀利上げの影響だけでなく、トルコ側のインフレ、金融政策、通貨不安の影響が非常に大きい通貨ペアです。
そのため、日銀利上げによる円高圧力は当然ありますが、実際の値動きはトルコリラ自体の弱さに左右されやすいです。
スワップポイントが高く見えても、為替レートの下落でスワップ収益以上の損失が出る可能性があります。
特にTRY/JPYは、スワップ投資向け通貨ペアの中でも、為替変動リスクをかなり大きく見ておく必要があります。
HUF/JPY:金利差は魅力だが、流動性に注意
ハンガリーフォリント円も、一部のFX会社では高スワップ狙いで注目されることがあります。
ただし、MXN/JPYやZAR/JPYと比べると、取扱会社や流動性の面で注意が必要です。
日本の利上げによって円高圧力がかかれば、HUF/JPYにも下落リスクがあります。
また、ハンガリー側の政策金利、欧州経済、ユーロ圏の景気、地政学リスクなどの影響も受けます。
スワップだけで判断せず、通貨ペア自体の流動性や値動きの荒さも確認しておきたいところです。
スワップ投資で本当に注意すべきこと
ここ数年の事例を見ると、日本の利上げで注意すべきなのは、スワップポイントの減少だけではありません。
むしろ、より大きなリスクは為替レートの急落による評価損です。
たとえば、メキシコペソ円を買ってスワップを受け取っていても、為替レートが短期間で10%以上下がれば、日々のスワップ収益ではカバーしきれない可能性があります。
特に高レバレッジで運用している場合、急な円高で証拠金維持率が大きく低下します。
スワップ投資では、次の点を確認しておくことが重要です。
| チェック項目 | 内容 |
|---|---|
| 日本の利上げペース | 追加利上げが続くと円高圧力が強まりやすい |
| 相手国の金利動向 | 相手国が利下げすると金利差が縮小しやすい |
| スワップポイント | 実際のFX会社の付与額が下がっていないか |
| 為替レート | 高値圏で買い増していないか |
| 証拠金維持率 | 急落してもロスカットされない余裕があるか |
| ポジションの偏り | MXN/JPYやTRY/JPYなどに集中しすぎていないか |
過去事例からわかる結論
ここ数年の事例を見ると、次のように整理できます。
日本の利上げは、クロス円の買いポジションにとって基本的にはマイナス材料です。
ただし、日銀が利上げしたからといって、毎回クロス円が大きく下がるわけではありません。
2024年3月のマイナス金利解除では、日銀が慎重な姿勢を示したこともあり、クロス円は大きく下がりませんでした。
一方、2024年7月末〜8月初旬には、日銀利上げに加えて、円キャリートレードの巻き戻しやリスクオフが重なり、メキシコペソ円や南アフリカランド円が大きく下落しました。
つまり、スワップ投資で特に警戒すべきなのは、単なる利上げではなく、次のような局面です。
- 日銀の利上げが市場予想よりタカ派的
- 今後も追加利上げが続くと見られる
- 円キャリートレードの巻き戻しが起きる
- 世界的な株安やリスクオフが重なる
- 高金利通貨がまとめて売られる
このような局面では、スワップ投資向けのクロス円でも、短期間で大きな評価損が出る可能性があります。
まとめ
日本の政策金利が引き上げられると、円の金利が上がるため、クロス円の買いポジションには下落圧力がかかりやすくなります。
特に、MXN/JPY、ZAR/JPY、TRY/JPY、HUF/JPYなどの高金利通貨ペアでは、金利差の縮小や円高による評価損に注意が必要です。
ただし、実際の相場では、利上げそのものよりも、市場予想との差や円キャリートレードの巻き戻し、世界的なリスクオフの影響が大きくなります。
2024年7月末〜8月初旬のように、円高とリスクオフが重なると、スワップ投資向けクロス円は大きく下落することがあります。
スワップ投資では、日々のスワップポイントだけでなく、急な円高に耐えられる証拠金維持率を意識することが重要です。
高スワップ通貨ペアは魅力がありますが、利上げ局面では「スワップがもらえるから大丈夫」と考えず、為替差損リスクを大きめに見ておきたいところです。
この記事の要点
- 日本の利上げは、クロス円買いにとって基本的にはマイナス材料
- ただし、利上げだけで必ずクロス円が下がるわけではない
- 2024年3月のマイナス金利解除では、クロス円は大きく下がらなかった
- 2024年7月末〜8月初旬は、円キャリー解消も重なり、MXN/JPYやZAR/JPYが大きく下落
- スワップ投資で怖いのは、スワップ減少よりも急な円高による評価損
- 高レバレッジ運用では、利上げ局面の証拠金維持率に注意が必要